2008年5月8日木曜日

音律と音階の科学とは何か?

0.
 ブルーバックスといえば、数式やグラフを見たくない文系人間にも色々な科学的な知識を易しく教えてくれるシリーズだ。なので、僕が、この本はきっと「ピタゴラス音律→純正律→ミーントーン、ウェル・テンパラメント→平均律」(54)という「音律」なるものの作られ方、特に平均律の作られ方について、易しく解説してくれる新しい教科書になるに違いないと思ったのも無理は無い。結論から言えばそれは間違いで、しかしかわりに僕は、「音律」に拘りすぎると「音楽」を忘れる、という美辞麗句のようなもの(?)を思いついた。

音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス 1567)
小方 厚
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小方厚(おがたあつし) 2007 『音律と音階の科学 ドレミ…はどのようにして生まれたか』 ブルーバックス 東京都:講談社。

出たばかりの頃に本屋の店頭で見かけてスルーしてたのだけど、TBS RADIO 小西克哉 松本ともこ ストリーム : 4/24(木)で取り上げられていたのを聴いて買ってしまったのだ。ストリーム恐るべし。あと、「音律に関する教科書」は、藤枝守『響きの考古学』の二冊かな?

響きの考古学 増補―音律の世界史からの冒険 (平凡社ライブラリー ふ 20-1)
藤枝 守
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藤枝守 2007 『響きの考古学 増補―音律の世界史からの冒険』 東京:平凡社ライブラリー。僕が持ってるのは、1998年に出た音楽之友社出版のものだけど。

 「音律の仕組み」は数学的に難しいものなので易しく解説するにも限度があるのかもしれない。しかし、もっと易しいものは無いものだろうか。

1.
 ともかく、一つ確信したことは、平均律の合理性を語るにせよ、その不純性を強調して純正律の"美しさ"を語るにせよ、「音律の話題を強調する論述は、"音楽"について"協和と不協和"という軸でしか語らない傾向がある、つまり視野が狭い。」と言えるだろうということ。
 音階の協和と不協和でしか音楽について語らないこの論述が持つイデオロギーは、最初に出される「音楽はデジタルだ。」という断定だろう。この手の主張に対してケージ的に反論すれば、問題は「協和か不協和か」ではなく「楽音か未だ楽音となっていないノイズか」だ、という反論になる。つまり、音楽とは決して常にデジタルな音と音との組み合わせ(離散的な音響関係)ではない、音とは連続的なものだ、という反論が可能だろう。
 また、音律重視派やケージ的な反論に対して、「音楽ではない音を用いる芸術」の可能性を主張するダグラス・カーン的な反論を試みるとすれば、問題は「楽音かノイズか」ではなく「結局のところノイズを楽音に回収するという作業を継続することで"アヴァンギャルド"でい続けようとするアヴァンギャルド音楽の制度的な戦略か、あるいは、音楽ではない音響芸術の可能性か」などの二択になるのかもしれない。これは制度的な意味での「音楽」を問題とする場合に可能な反論なんだろう。
 もしくは、音律重視派やケージ的な反論に対して、あくまでも「音楽」の立場から反論することのほうが容易だろう。つまり、あらゆる種類の音楽にとってその音響関係こそが最大のポイントだとは決して言えない、という反論が可能なのではないか。(日常的な音楽経験において、音響関係の聴取は当然低くはないけど、決して100%ではない。Perfumeの音楽の音響関係を聴取だけで面白いわけないし、ろけんろーるというものの魅力のかなりの程度は、そこにまとわりつく様々な種類の今やほとんどクリシェになってる物語―せっくすどらっぐろけんろーる、とか―だろう。)

 つまり、「1.デジタルな音と音との組み合わせ(離散的な音響関係)だけが音楽ではない。」し「2.デジタルな音でないにしても、音響的側面だけが全ての音楽にとっての最大のポイントとは限らない」だろうし、つまり「3.(コンセプチュアルな音であろうとも)音は音楽が成立するための必要十分条件だろうとは思うけど、常に最も肝心な存在条件とは限らない。」ということが言えるのではないか。


2.
 ということを、音楽を音律の問題に還元して語る著述の視野の狭さと対数とか出てくる解説の難しさに腹を立てて、この本とは逆の方向で音楽について考えてみよう、と思って考えました。
 結局、この本の「主張」は205-208を読めば分かります。
 平均律の心地よさの合理性の証拠として心理学的な実験をあげているのだけど、それは何だか循環論法ではないかとも思いますが、まあ、それはいいです。
 岡田暁生『西洋音楽史』の読み方は間違えてると思いますが、13行分しか言及されていないし、ほとんど関係ないので、それもいいです。

 とはいえ勿論、この本の肝心な点は、「主張」なんかじゃなく、音律と音階の科学の解説です。
 対数出されるともう分からん。僕には藤枝守『響きの考古学』でぎりぎりだったのだな。

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